スズランのフィギュア作りました

スズランのフィギュア、なかったので作りました
フルスクラッチ 1\7 スケールの光学式3Dプリントガレージキットです
 
 
「無いんだったら作ればいいのよ」という古い神様の格言に従った次第
2022/09から着手して2025/5リリースとなり、足掛け2.5年かかってます
まあ途中中断していたからなのですが、正月アカリを作ったり商業出版したりいろいろあった間に競合でもある素敵なガレキがいくつか出てきたものの、公式からスズランフィギュアが出ないままだったのは、良かったのか悪かったのか

Blenderの利用

スズランのモデルデータはBlenderにてポリゴン方式でモデリングしました

 
 
今回いわゆる「ローポリ」の先人たちの知見を応用させていただいた次第です
ポリゴン方式は、ざっくり説明すると三角形の面をくっつけ合わせるタイプの作り方です
2Dにベクタとラスタがあるように3Dにもポリゴンとボクセルがあり、Blenderは3Dモデリングソフトウェアとしてはボクセル風な作業もできますが基本はポリゴン系ベースです
ただ、いわゆる美少女フィギュアのモデリングで一般に多いのは、ZBrashでボクセルです。ようはCG粘土細工といった手触りになります
つまり、Blenderでモデリングをすると一般的なフィギュアモデリングのテクニックそのまま使えない部分が出てくるということです。ゲームキャラクターCGなどでこれまた知見の多いローポリを応用する必要があった理由でもあります
あとついでに、Blenderは元はCGアニメーション向けとして出発しているソフトウェアです。なので3Dプリント用モデル製作での使用は、向いてないというか不便なところは正直ちょっとあります

髪と顔

頭部は前髪と後頭部をパーツ分けする標準的な分割です。耳は後頭部と一体化
 

 
 
髪は房毎のポリゴンパーツとしました。参考モデルがそうだっただけなのですが、結果的に流れるような綺麗な髪を持つモデルの素敵なスズランとなり、作り直しせずに済みました
とはいえ次モデルでは、パーツ管理の都合で一体ポリゴンパーツに挑戦すると思います
顔モデルは元々CGアニメーション向けのポリゴン構造を参考にして流用しています
 
 
そこから手元にあるフィギュアや、デッサン用に持っているアニメドールの頭部を参考に、アイペイント向けに作り変えています
また、フィギュア向けを意識して、元イラストよりも僅かにシュッとした縦長で大人っぽい造形に寄せています


スカート周りの造形

薄いマテリアルはプリント時に歪みの原因となり、広がった裾が3Dプリンタの造形サイズ限界を叩き、多量のフリルは作業工数を爆発させ、左右非対称の皺がスケッチ技能を要求する...等々、スカートは単純ながら難しいターゲットです
 

 
モデルとして固定方法も困りもので、最終的に、スカートを胴体と下半身の間で挟んで固定するため、腰回りの全モデル含有を断念しています
最初はアンダースコートもそうだったのですが、スカート厚の問題もあり、かなり手間を掛けて、スカートにビルトインする形に変更しました
BlenderではSubdivisionSurfaceを用いることでかなりポリゴン数を削減しなめらかなスカートを作ることができます。この方式は操作ポイント数をかなり削減できるため編集が楽になるのですが、Blenderと印刷の都合によりViewレンダリングが重くなってしまうのを避けられません
アンダースコートのフリルは何かしら良い感じの幾何学的操作で半自動で作ったような気がするのですが、時間が経ちすぎて手順を忘れてしまいました

スズランの背中

スズランの背中側、意匠がどうなっているのかは正直よくわからず、あちこち調べまわりました
現状、調査の結果として公式の3DモデルがX周年記念動画で登場しており、後ろからのショットもあったのでこれを参考にしています
 
  
(CG,VRでない立体造形用モデリングなので色付けは適当です)
 


ただしこれも3Dモデル用にディフォルメなどされたものである可能性はあります
また、どうにも首元の布色など詰めていくと矛盾するようなところがあり、最終的には首裏の構造には創作も少し混じっております
公式資料集などには答えが載っているのかもしれませんが、タイミングにより入手はできなかったため、情報をお持ちの方は良ければお知らせください
とはいえ、最終的には後述の通り、マントをマウントする都合で本モデル固有な意匠も入れています

マントの固定

引き続きベルトも関係する話として、フィギュアのマントの固定
フィギュアのマントパーツは、どう固定するかという問題がつきまといます
スズランの意匠の場合、肩を覆うフリルと前面の止め紐で全周を覆っているのも問題です
今回のガレキでは、パーツ構成としては止め紐はパーツ分離して肩フリル付きのマントを一体出力
組み立ては首を外した状態でマントをかぶせて組み立て
基本的には接着剤で固定する、という想定としました
 


 
 
成形について、最初は止め紐含め一体で3Dプリント出力していたのですが、
上半身の方にマントの止め金がありそうな位置に対応するマウントポイントを造形することで対応しました
マウントポイントは創作で、背中の見えないところは完全に固有ですが、前面の止め金は本家デザインにも存在する蓋然性はかなり高いのではないかと思っています

ワンド(杖)

フィギュアモデリングはキャラクターが主体ですが、直線が多く作りやすい装備類、特に長物として目を引く杖のモデリングは、ある意味3Dモデリングで最も楽しい工程ではあります
 

 
 
今回悩んだのですが、弊シャとしては新しい試みとして、ワンドの軸に既製品3mmプラ棒を採用することとしました
パーツ管理まで考えると意外とこういう単純な形を3Dプリント出力するのは面倒ですし、あと弊シャは高価なレジンを使っているので置き換えられるパーツは節約したい、という都合もあります
 


モデル側の工夫として、杖自体ではありませんが、杖を持つ手のひら内側に杖を位置固定する凸モールドを入れてあります
中折装着にすることで杖の塗り剥げを防止し、杖を持つ高さも固定できます

3Dプリント工程

苦労が多い3Dモデリングですがフィギュア制作においては道半ばに過ぎません
モデル完成から、3Dプリントにたどり着くまでにはいくつか乗り越えるハードルがあります

*多くの場合、モデルをそのまま一括3Dプリントはサイズ上厳しいため、印刷モデルはパーツ分割が必要です。パーツ分割方法によっては後の着色工程を支援することもできます
*コストと取り扱いの都合、印刷モデルは中抜きするべきです。中抜き自体はスライサが自動でしてくれますが、中に溜まるレジンを抜くための抜き穴の位置はヒトが調整して開ける必要があります
*多くのモデルは全てが土台にひっついた出力とはならないので、出力中に印刷物を支えるサポート材を付けることになります。これもスライサが自動で付けてくれますが、あまり賢くないので最後はヒトが調整します
*これらを3Dプリント土台上で配置し、必要なら複数回に分けて、3Dプリントを実施します

パーツの分割

パーツを分割してしまうとポーズの大幅な変更は厳しいため、非可逆な工程となります
3Dプリンタの印刷可能サイズによってはモデルデータを未分割で出力が厳しい
大きなスカートなどをモデリングするときは、当初から分割可能になるようデザインを検討することになります

芯棒穴をあけておく

ガレージキットといえばパーツを繋げる針金を刺す穴も購入者が開けるもので、パーツ同士ズレないように穴をあけるテクニックがよく取り上げられています
 
 
流し込み複製では難しいですが、3Dプリント向けモデルでは穴を開けることも容易なので、最初から芯棒を刺す穴をあけておくことにしています
自分で仮組みをするときにも役立ちます

モデルの中抜き

高価な光造形レジンを使っている都合、モデル中抜きは大切で、中抜きの有無で材料費が3倍とか違うため試作にも影響が出ます
ちなみに、弊シャことdaisy bellではエキマテという安価帯価格から5倍くらいする高額レジンを使っています
アレルゲンフリーを謳っており、うっかりレジンアレルギーで光造形3Dが出来なくなるなどのリスクを低減できる、はずです(ちなみにエキマテ販売元に「硬化前から大丈夫なの?」と訊いたことがあるけれど成分表だけ渡されて大丈夫と明言はしてくれなかった)
閑話休題
初期、中抜きはBooleanモディファイヤで手作業していました
できるだけ材料消費を減らすよう薄くギリギリを攻めて、試作を出力すると薄すぎて破綻したり中貫が突き抜けて穴が空いていたりで、やり直しに時間と材料費が無駄にかかる本末転倒、みたいなことになっていました
ほかにも、Booleanモディファイヤで複雑になるとモデルデータが重くなるとか、モデルを編集したとき中抜きも編集して追従する必要があり面倒、などのデメリットがあります
結局、モデル作成でまごまごしているうちにスライス後工程ソフトウェアのCHITUBOXに中抜き(Hollow)機能が実装されたため、ほとんどのパーツで中抜きをCHITUBOXに移行してモデルからは削除しました

3Dプリント実施

スズランはスカートが大きく他パーツも点数が多いため、結局、弊シャ環境では4回に分けて3Dプリント出力が必要となりました

総括

満足いくものが出来ましたが、もっと工程は洗練できると思うので、次回はもっとうまくやります
 
daisy-bellのBOOTHにて頒布
 

 
 

Blenderクイズ:SubdivisionSurfeceの結果がおかしい

(今回、持って回った英文翻訳風にざっくり雑にブログ記事を書きたい気持ちだったのでクイズの形式を取っているだけです。答えバレ防止反転表示などはしていないので、本当にクイズ当てしようとせず、軽い気持ちで読んでください。)

 

3Dモデリングソフトウェアは立体という我々が日常に何時も触れている身近な存在を扱うソフトウェアですが、あくまでコンピュータの中にあるObjectは計算で仮想しているものでしかなく、そのため時に思いがけない結果形状を示し、望みの外観を得るためには(私がそういった深い認知を持っているかは棚に上げますが)Blenderへの深い理解や長い経験が必要な場合があります。

 

今回はクイズです。Blender上でSubdivisionSurfece モディファイアを掛けた結果がおかしいのですが、まずどこがおかしいか気づきますでしょうか。そして、原因と解決法は?

 

詳しい状況として、肩掛けのフリルを作成しています。先程Split>Selectionでオブジェクトを分割してフリルを切断し、空いてしまった面を埋めたあと、EditModeでいくらか点を動かして形状の調整をしたところでした。

 こうすると見える対象Objectのフリルの端はObject形状の調整前というだけで、クイズの答えではありません。


正解はフリルのこの面です。


この面だけおかしなことに、SubdivisionSurfeceが効いていません。隣の面と比べれば一目瞭然です。


Blenderでのモデリング中、SubdivisionSurfeceがおかしな結果を示すことは枚挙に暇がありません。

大抵の場合、点の重なりを散々調べることになり、膨大な点を1つずつクリックしてみる作業に1時間を費やした後、面のNormalがおかしいことに気づきFlipで解決、といったコトになります。ですが今回、スクリーンショットをご覧いただければ、最初からFace Orientation のView設定が有効な状態で、一発で見て判るとおり、今回は面のNormalも原因ではないようです。

 

今回、原因を探るには、 別のView設定で見る必要があります。

 

X-Ray設定です。いわゆる透過。

今回のフリルは一見複雑に見えますが、わりと点数が少なく単純な構造です。BlenderとSubdivisionSurfeceの組み合わせのメリットといえます。

閑話休題。

どこがおかしいかわかりましたか?

では原因を発表しましょう。

 


 

今回、スクリーンショットが最初からEditModeのSelectModeがFace selectだったのは重要なヒントだったかもしれません。 

実際にはこの問題を解決した後、記事を書くために、Ctrl+Zだけで問題再現してSelectMode等は切り替えせずスクリーンショットを取ったというだけです。

 

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これは自慢になってしまうかもしれませんが、私が異常に気づいたのは、フリルの谷の端の分割がおかしくなっているところでした。フリルの谷にも折れ目が発生していますね。

(ちなみにこの前後のスクリーンショットは問題の再現が不完全なので、実際の問題をきちんと再現したスクリーンショットと微妙に形状が違います)
  



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 Blenderは、そしてモデル奥が深いですね。

残念ながら、今回のそれは実装に必要でなく邪魔するものでしたが。

スズランのフィギュア作りました

スズランのフィギュア、なかったので作りました フルスクラッチ 1\7 スケールの光学式3Dプリントガレージキットです     「無いんだったら作ればいいのよ」という古い神様の格言に従った次第 2022/09から着手して2025/5リリースとなり、足掛け2.5年かかってます まあ途...